トップダウン・デザイン
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トップダウン・デザイン/Top down designとは、開発部がカードやセットを作成する際、フレイバー面(モチーフの特色や背景ストーリーなど)を出発点としてデザインすること。
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解説
マジック:ザ・ギャザリングはアルファ版の時代より、ダンジョンズ&ドラゴンズなどに影響を受けたファンタジー世界を描いたトレーディングカードゲームであるため、トップダウン・デザインの手法は切っても切り離せない関係にある。
こういった手法はヴォーソスを満足させるだけでなく、うまくデザインされていればプレイヤーがカードのテキストをより直感的に理解できるようになるという利点もある。
ただ単に何らかのフレイバー要素(“トップ”)を出発点にしていればいいわけではなく、それをシステム的要素を使って実現できていてこそ(“ダウン”)トップダウンと言える。例えばギトゥのジョイラ/Jhoira of the Ghituは時のらせんブロックの主要人物がカード化されたものであるが、ジョイラ/Jhoiraの工匠としての面でなく、ブロックのテーマ(待機)に焦点を当ててしまっている。
近年は公式サイトで掌編小説を無料で閲覧できるようになったためストーリーの人気が増しているのに加え、統率者戦の人気も相まって登場人物が伝説のクリーチャーとしてカード化される頻度が増している。また注目のストーリーカードのような手法で重要シーンを描くことも多くなっており、よりトップダウン・デザインによる“芳醇さ”が重要視されるようになっている。
- あくまでデザインの出発点を見るものである。例えば穿孔の刃/Trepanation BladeはRichard Garfieldがチェーンソーとしてデザインしたものであるが、最終的にはチェーンソーではなくなっている。それでもチェーンソーのトップダウン・デザインであったことに変わりはない。
- このように、最初から必ずしもマジックらしいフレイバーを元にデザインされている必要はなく、パロディであったりバカバカしいプレイテスト名を付けられていることも多い。展望デザイン・チームにとってはイメージが伝わることが大事であり、製品化にあたるカード名などのフレイバー面の調整はクリエイティブ・チームに任されている。
- 逆を言うと、クリエイティブ・チームによって絵などが決まってしまった後は、セット・デザイン・チーム(かつてはデベロップ・チーム)はそれに従わなければならない。例えばクリーチャー・タイプの変更や、飛んでいるように見えるクリーチャーから飛行を取り除くといった調整がしづらくなる。
- このように、最初から必ずしもマジックらしいフレイバーを元にデザインされている必要はなく、パロディであったりバカバカしいプレイテスト名を付けられていることも多い。展望デザイン・チームにとってはイメージが伝わることが大事であり、製品化にあたるカード名などのフレイバー面の調整はクリエイティブ・チームに任されている。
- たとえ伝説のカードであっても、すべてがトップダウンというわけではない。バランスを取るために、ペナルティとして伝説性を付与する場合もあるからである。
- かつてはフレイバーを意識するあまり、ルール文章が冗長になってしまっているカードも多く存在した。例えば空飛ぶ絨毯/Flying Carpetは再録時に簡略化され、レジェンドのルール文章に書かれていたクリーチャー・タイプはタイプ行に書かれるようになった。
- 一方で、単純化しすぎてしまい「なぜ羊にならないのか」などと疑問を生んでしまった羊術/Ovinizeのように、以降はよりフレイバーを意識するようになった例もある。
トップダウンとボトムアップ
「トップダウン/top-down」とは元々、上意下達(組織の上層部の命令で下層部が動く形式)という意味である。対義語は「ボトムアップ/bottom-up」。
マジックにおいては、「上」をフレイバー、「下」をシステムとして、フレイバーを起点としてそれに合う効果を考案することをトップダウン・デザイン、システム(ゲーム上の動きや役割など)を起点としてデザインし、その後でカードの能力に合うフレイバーを付加することをボトムアップ・デザインと言う。
いずれにせよ、カードはデザイン過程を経てフレイバー面・システム面の両方を兼ね備えた形となってから世に出るため、完成したカードをひと目見ただけでどちらが出発点となっているか断定できるものではない。
トップダウン・デザインの歴史
アルファ版だけに目を向けても、(ほとんどのカードはトップダウンかボトムアップか公表されていないとはいえ)「戦いをやめて農夫にする」剣を鍬に/Swords to Plowshares、「炎を吐いて空を飛ぶドラゴン」シヴ山のドラゴン/Shivan Dragonと言った、フレイバー要素溢れるカードは数多い。
最初のエキスパンションであるアラビアンナイトは、その名のとおり『千夜一夜物語』の世界を再現することを目的としていた。続くアンティキティーでは、断片的に登場していたウルザ/Urzaを主役に据えたドミナリア/Dominariaのストーリーが本格的にスタート。翌1994年のザ・ダークでマジックの歴史上唯一イラスト主導でのデザイン、1995年のホームランドで新次元/Plane・ウルグローサ/Ulgrothaの登場、1997年のウェザーライトからは4年間に渡る『ウェザーライト・サーガ』という長期的なストーリー展開など、様々な手法が試された。
この時期は並行してコミックや小説も刊行されていた。ただし、小説などに手を出さない(あるいは欲しくとも国内で売っていない)ためにストーリー全体を把握できていないプレイヤーには、トップダウンすぎるカードは「何が魅力的なのかよくわからない」という評価を受けがちであった。この問題を解決する最適な手法を探して、開発部も試行錯誤を繰り返すことになる。
2004年からの神河ブロックはブロックとしては初めてのトップダウンとなったが、独特すぎる世界設定への反応は賛否両論で、売り上げが振るわなかったため後に失敗談として挙げられることになる。その後、新次元のトップダウン・デザインは間が空くことになったが、2011年からのイニストラード・ブロックの成功を受けて以降は頻繁に行われるようになっている。
トップダウン・デザインの一例
カード
- Rashka the Slayer - ヴァンパイア・ハンターという設定を反映し、当時の吸血鬼の代表格たるセンギアの吸血鬼/Sengir Vampireを一方的に倒せる。
- 銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem - 生物を殺さないというカーン/Karnの信念を反映し、クリーチャーとの戦闘時にはパワーが0になる。
- 迷路の終わり/Maze's End - 勝利条件が背景ストーリー中の暗黙の迷路/The Implicit Mazeを忠実に再現している。
メカニズム
- 忍術
- 罠、探索、同盟者 - ゼンディカーはボトムアップのセットであったが、冒険世界を表すトップダウン要素「罠、地図、連中/traps, maps, and chaps」として[1]
- 窮地 - 人間の絶望を表すメカニズムが必要だったため作られた。
次元
次元名 | 題材 |
---|---|
ラバイア/Rabiah | 千夜一夜物語 |
ウルグローサ/Ulgrotha | センギア/Sengirなどのマジック用語 |
神河/Kamigawa | 古代日本 |
イニストラード/Innistrad | ゴシック・ホラー |
テーロス/Theros | ギリシャ神話 |
アモンケット/Amonkhet | 古代エジプト、ニコル・ボーラス/Nicol Bolas |
イクサラン/Ixalan | 大航海時代、恐竜 |
エルドレイン/Eldraine | アーサー王伝説、おとぎ話 |
- 既に述べたように、トップダウン・デザインであるか否かはあくまで制作の起点にすぎない。ボトムアップ的に作成されたカードや次元であっても、最終的には芳醇なフレイバー要素を備えることになり、その完成度からフレイバー面でも人気を得ることも少なくない。そしてそうして得たフレイバー要素から、さらなるトップダウン・デザインが行われることがある。
- 例としてゼンディカー/Zendikarは「冒険世界」をイメージした次元だが、これは最初から冒険世界を作ろうとしたのでなく、土地メカニズムに合う世界を考えた結果辿りついたものなのでボトムアップ・デザインである。
- 一方で、続編である戦乱のゼンディカー・ブロックはエルドラージ覚醒の続きのストーリーを描いており、さらなる続編のゼンディカーの夜明けは初心に帰り「冒険世界」要素を掘り下げている。これらはいわば「ゼンディカー・ブロックの続編」というトップダウン・デザインである。
脚注
- ↑ NUTS & BOLTS #10: CREATIVE ELEMENTS/基本根本:クリエイティブ要素(Making Magic -マジック開発秘話- 2018年3月26日 Mark Rosewater著)